シクロオレフィンポリマー(COP)で作る
マイクロ流路チップ: 導入事例

CASE : 02
Craif株式会社 様

COP素材のマイクロ流路チップを活用
尿検査でがんの早期発見
最適な治療選択を目指す

Craif株式会社は、尿から高精度でがんを早期発見するという画期的な技術を開発している大学発ベンチャー企業です。
医療が進歩し、がんの生存率は上がっていますが、それでも日本では3人に1人はがんで亡くなるのが現状。また、手術やつらい治療などで患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)は大きく低下しがちです。そのソリューションとして、現行のがん検診などでは発見がむずかしいような早期のがんを尿検査で高い精度で発見できるというCraif株式会社様の技術に注目が集まっており、その開発過程で日本ゼオンのマイクロ流路チップ試作サービスが利用されています。
サービス利用の経緯や日本ゼオンとの関係について、Craif株式会社代表取締役CEOの小野瀨隆一様と同社最高技術責任者CTOの市川裕樹様にお話を伺いました。

小野瀨隆一

代表取締役(CEO)、共同創業者。早稲田大学国際教養学部卒。
小学生時代をインドネシアと米国で過ごす。大学時代はアジア最大の英語劇大会制覇、また1年間カナダのマギル大学に留学。
2014年4月 三菱商事株式会社入社、4年間米国からシェールガスを日本に輸入するLNG船事業に従事。
2016年5月 サイドビジネスで民泊会社を全国で展開。
2018年4月 三菱商事を退職。
2018年5月 Craif株式会社創業。

市川 裕樹

最高技術責任者(CTO)。東京大学大学院 薬学系研究科にて博士号取得。
ケミカルバイオロジーを専攻し研究に携わる一方、米国のNPOにて開発途上国への医療テクノロジー導入も支援。
2013年7月 外資系製薬会社に入社。MR、全社プロジェクトのPMO、マーケティングと経営企画のマネジャーに従事。
2019年1月 同社を退職後、Craif株式会社に参画。

尿検査だけでがんの早期発見と最適な治療選択できる

まず、御社の事業概要を説明していただいてもよろしいですか?

小野瀬:尿検査によるがんの早期発見と最適な治療選択が可能になります。
まず、技術的には様々な種類のがんの早期発見ができる可能があります。まだどのがんから実用化を進めていくかというところは決まっておりませんが、我々の理想としては、尿検査を受けることによって、10種類程度のがんの検査ができるというようなものに仕立てあげたいと思っています。
治療選択については、例えば抗がん剤にも色々種類がある中で、どの薬を投与したら1番効くのか、という治療の選択を行っていく、というものです。

早期のがんを尿検査で見つけられるということですか?

小野瀬:進行しているがんももちろん見つかりますが、多くのがんでは早期に発見する方がより有効な治療ができます。現状がん検診などで行われているような検査ですと、進行しているものは見つかる一方で、いわゆるステージ1といった早期のがんはほとんど見つかりません。これをかなり高精度で発見して早期に治療しましょうということを目指しています。

ほとんどすべてのがんに対応しているとのことですが、がんの種類によって発見できる精度に差はあるのでしょうか?

小野瀬:現状ではまだすべてのがんについて試しているわけではありません。ただ、試している範囲ではどのがんもかなり高い精度で発見できています。

なるほど。実際に提供されるのは具体的にいつ頃なのでしょうか。

小野瀬:2020年の夏頃を目安にまずはサービスを始めていきたいと思っています。まずは小規模で始めて、それを徐々に拡大していくというイメージです。
治療選択についてはもう少し先の時期で、まずはがんの早期発見の方からスタートさせます。

革新的な技術を支えるCOPと試作サービス

がんにかかる人の数も増えていますので、かなり画期的な対策になりそうですね。具体的に御社の技術がこれまでのがん検診とどう違うのか教えていただけますか?

小野瀬:原理が今までの方法とかなり異なります。我々は、細胞がお互いのコミュニケーションをするのに使っている物質を見ています。これがエクソソームというカプセルみたいなもので、ここの中にマイクロRNAという重要な情報が含まれています。がん細胞はエクソソームを他の細胞よりも多く放出しておりますので、我々の技術では早期のがん細胞から体の中に放出され、尿中に出てきたエクソソームを捕捉して解析するわけです。
例えば、会社のメールを見ることができれば会社で何が起きているのか分かりますよね。ただし、見ることができるメールが断片的だったら情報が足りないし、解釈を間違えてしまうかもしれません。全体を見ることができれば、何が起きているのか正確に分かる、というのが我々の技術のイメージです。

治療の選択もその延長線上にあります。まずがんが発している物質からどこにがんがあるのかが分かり、それがどういう状態であるかということも分かるので、それならこの薬が効くのではないかという選択まで可能になるわけです。
尿検査でどの臓器にがんがあるのか、というところまで特定できるので、その臓器に絞って精密検査ができるという、既存の医療経済に負担のない非常に効率的なかたちです。かつ早期で発見できるので、患者さんも最低限の負担ですみます。尿検査だけですから、究極的には自宅で尿を採取して検体を送付するだけ、みたいなこともできるようにしたいです。

マイクロ流路チップ

メール全体を見ることができるというたとえはとても分かりやすいですね。同じようなアプローチは今までなかったのでしょうか。

エクソソーム自体は10年前くらいから注目されて研究が加速してきたのですが、当初から捕捉のところに大きな課題がありました。それを我々は世界で初めて高効率で、99%以上尿から捕捉する技術を確立しました。これによって断片的にしか見えていなかったものを網羅的に解析することが可能になったのです。

エクソソームの中に入っているマイクロRNAは、人由来のもので2,000種類見つかっています。そのうち、既存の技術だと1人あたり200~300種類しか捕捉できなかったのですが、我々は1,300種類以上取れています。体の状態によって持っている種類が異なるので、累計するとほぼすべての種類を捕捉できていることになります。
それによって網羅的な解析ができるというのが我々の強みで、そのデバイスであるマイクロ流路チップにCOPを使用しています。

デバイスの設計自体も御社内で行っているのですか?

小野瀬:デバイスの設計も含め、元々の技術を発明したのは名古屋大学工学部准教授で弊社の共同創業者でもある安井隆雄先生で、弊社はその技術の実用化を担う、いわゆる大学発ベンチャーですね。
ゼオンさんには安井先生が研究段階だったときからお力添えをいただいて、今に至っています。

市川:安井先生が持っているナノワイヤの開発という技術を使いこなすデバイスをゼオンさんと一緒に作っています。マイクロ流路を作るときに、特性として歪みがキーになってくるのですが、そこに対してCOPは強い素材ですし、ナノワイヤにエクソソームを吸着させるためにもCOPは適しています。

ニーズを把握した提案や柔軟な対応に感謝

ニーズを把握した提案や柔軟な対応に感謝

市川:最初の段階では、より安定的に多くのサンプルを測定できるデバイスを作ることが課題でした。今は規格も統一し、スループットを上げ、より安価で安定的に測っていくことで研究用よりもう一段階高いレベルで、事業化に見合ったものに改良していくのが課題です。

ゼオンさんは本当に素材のプロフェッショナルでいらっしゃるので、特性をよく把握されていて「こういう形状だったらうまくいきますよ」というアドバイスもしてくださいます。我々としてはそういったところには知見がないので、すごく助かっています。

日本ゼオンと一緒に仕事をしてきて、印象的なエピソードがあれば教えてください。

市川:基本的に相談させていただきながら進めることができて、こちらのニーズも的確に把握した上でご提案をいただいているのが非常にありがたいですね。

小野瀬:最初のR&Dのフェーズのときってどうしても状況はすぐに変わりますし、特にベンチャーはスピード感を持って進めていきたいので、それにすごく柔軟にご対応いただけるというのは大きな意味があります。

市川:お願いしても「うちはこれしかできません」とお断りされてしまう会社さんもいらっしゃる中で、ディスカッションしながらこちらのニーズも汲み取っていただいてお話できるというところは非常にありがたいです。

日本ゼオンの製品や試作サービスの利用を検討している業界や企業に向けて伝えたいことはありますか?

小野瀬:我々は小さな会社ですが、すごく柔軟に協力してくださるのが本当にありがたいことです。それが信頼感の醸成にもつながりますから、どこのベンチャーにとっても、ゼオンさんの対応は嬉しい点だと思います。

市川:大学発ベンチャーには共通していることだと思うのですが、大学の研究室でやっていることと、ベンチャーあるいは企業としてやっていることは、求めらている観点が全然違うんです。研究室で9割方できたといっても結局1からやり直さないといけないことも珍しくありません。

マイクロ流路チップ

小野瀬:9割方できたといっても、残りの1割にかける労力が全体の9割分くらいを占めるので大変なんですよ。
弊社の技術ではナノワイヤの部分に注目されがちですが、産業化を進める上ではあまりスポットライトが当たらないような部分ももちろん重要です。そのあたりはゼオンさんのお力添えがないと成り立たない部分ですね。

市川:実用化を目指して1歩ステップを踏み出すとき、ゼオンさんはすごくいいパートナーだなというのが、これまでの我々の進め方から感じるところですね。特に大学などで、すごく良いコンセプトはあるけれども、社会実装の方法を模索している、というときにはとても良いと思います。

がん以外の疾患への応用も

今後、御社の技術にはどのような可能性があるのでしょうか。

市川:我々の技術の革新性がある部分というのが、人が持っているマイクロRNAを網羅的に取れるところです。それを解析することによって、がん以外の疾患にも応用ができます。
それぞれの疾患にエキスパートの先生方がいらっしゃるので、そういった方々にリードしていただきながら、我々としては捕捉して解析する技術の面で一緒に取り組んでいくというイメージです。

小野瀬:応用用途としては多くの疾患に応用できる可能性がありますが、それを1社で行うのは非効率ですし、現実的ではありません。我々のコアテクノロジーはデバイスですので、それを提供することで、様々な分野の方々と共に開発していきたいと考えており、すでに様々な疾患でパートナリングを始めています。

「人が天寿を全うする社会を実現したい」というのが、我々が掲げている理念ですので、そこに向けて進んでいきたいと思っています。

【インタビューを終えて】

がんの早期発見という社会的な意義も非常に大きい課題に取り組んでいるIcaria株式会社様。密にコミュニケーションをすることで素材の提供に限らないサービスを行う日本ゼオンの姿勢を高く評価してくださいました。今後もより厚い信頼関係が構築できるよう、ご期待以上の対応をさせていただきたいと存じます。

【企業データ】

  • 社名:Craif株式会社
  • Webサイト:https://craif.com/
  • 本社:東京都文京区本郷3-38-14 NEOSビル3F
    研究拠点:愛知県名古屋市千種区不老町1 NIC8F 803
  • 設立:2018年5月
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